2018年12月02日 3面
農業用水を確保するために造られた「ため池」。今年7月の西日本豪雨で決壊が相次いだため、農林水産省は直後から水位を下げるなどの応急措置を講じる一方、11月には新たな基準を定めて危険箇所の把握を進めています。対策のポイントなどについて、公明党復興・防災部会の谷合正明部会長(参院議員)に聞きました。
■Q 西日本豪雨で大きな被害。国はどう動いた?
■A 全国約9万カ所を点検し、水位低下など実施
アスカ 西日本豪雨による、ため池の被害状況は?
谷合 広島県を中心に32カ所が決壊し、死傷者が出たほか、多くの家屋が浸水しました。
私も農林水産副大臣(当時)として、広島県や愛媛県のため池を視察しました。大小さまざまあり、小さいものほど、所有者が不明だったり、使われなくなって放置されている実態が分かりました。その多くは、江戸時代以前に造られたものです。広島県知事からは、ため池の管理のあり方について対策を求める意見を頂きました。
アスカ ため池は西日本に偏在していますね。
谷合 そうです。全国に約20万カ所あるうち、瀬戸内海沿岸に6割が集中しています。都道府県別に見ると、兵庫県が4万3245カ所と最も多く、広島県の1万9609カ所、香川県の1万4619カ所と続きます。一方、最も少ない東京都は8カ所です(2014年3月時点)。
アスカ ため池の多い地域を豪雨が襲ったことが、被害を大きくした要因ですね。
谷合 加えて決壊した32カ所のうち29カ所は、都道府県が選定し、堤の補修などを優先的に進める「防災重点ため池」ではなかったことも背景にあります。
アスカ そこで、国はどう動いたのですか?
谷合 7月19日から8月31日にかけ、全都道府県で緊急点検を実施しました。対象は、防災重点ため池に限らず、決壊した場合に家屋や公共施設などに被害を与える恐れのある8万8133カ所です。点検を受け、危険度の高い1540カ所で水位を下げるなどの応急措置を講じました。
■Q 危険箇所を把握できていなかったのはなぜ?
■A 「防災重点」の対象外。新基準での選定に着手
アスカ 今回、危険性の高いため池が、防災重点ため池として把握できていなかったのはなぜ?
谷合 選定基準として、(1)下流に住宅や公共施設があり、決壊した場合の影響が懸念される(2)堤の高さが10メートル以上(3)貯水量が10万トン以上――の三つがあり、池の規模が主な要件となっています。西日本豪雨で決壊したのは小さなため池だったため、選定から漏れていたのです。
また、選定を行う都道府県によって、基準の解釈にばらつきがあったのも要因です。三つの基準のどれか一つでも当てはまれば防災重点ため池に該当しますが、(1)に加え、(2)や(3)を満たすことを要件にしている自治体もありました。
アスカ それで基準を見直したのですね。
谷合 はい。国は11月13日、「ため池から500メートル以上の浸水区域内に家屋、公共施設などがあり、かつ貯水量5000立方メートル以上」――などの基準へと改めました。
アスカ 今後の予定は?
谷合 国は都道府県に対し、来年の梅雨前までに新たな基準で再選定するよう要請しました。再選定で防災重点ため池の数は、現在の約1万1000カ所から拡大する見込みです。
アスカ 再選定後の対策も重要ですね。
谷合 都道府県は、防災重点ため池の名称や位置などを示したマップの作成や、池の管理者と行政による災害時に備えた緊急連絡体制の整備などを進めます。公明党としても、補強や耐震化にかかる予算措置を政府に求めるなど、ため池の決壊防止策に全力を尽くします。