2022年3月8日 3面
2023年度にも「日本版排出量取引」がスタートする。経済産業省は先月、二酸化炭素(CO2)の排出枠を企業間で取引するための市場の創設に向け基本構想を発表した。日本の排出量削減に向けたこの取り組みを解説するとともに、公明党地球温暖化対策推進本部の谷あい正明事務局長(参院議員)のコメントを紹介する。
■CO2を企業間で売買/補助金で参加促す方針
企業間の排出量取引とは、企業ごとに排出量の上限を決めて「排出枠」を売買する制度だ。
その仕組みは、排出量の上限を超えた企業が、余裕のある他の企業から排出枠を買う【イメージ図参照】。排出枠の購入コストを減らそうと企業が排出削減に取り組むので、全体で削減効果が期待できる。
こうした排出量取引が活発になれば、2030年までに世界全体のCO2排出量の約3割が削減できるとの試算もある。日本は、30年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減することを国際的に約束している。この削減目標には排出量取引による効果は含まれておらず、制度構築が目標達成の追い風になると期待される。
排出量取引は、CO2に価格を付けて企業に排出コストの削減を促す「カーボンプライシング」【表参照】の一種で、排出量に応じて課税する炭素税などと共に排出削減の有効な手法として国際社会で注目を集めている。既に排出量取引がスタートしている欧州では、産業ごとに排出量の上限を設定している国もある。
しかし、欧州に比べ、日本は遅れていると指摘されている。国際社会の潮流に対応しなければ企業が脱炭素化の流れに取り残され、競争力を失う恐れも危惧される。
■民間の負担増で課題も
一方、企業にとっては悩ましい問題もある。排出量削減には技術などの導入コストがかかるため、特に鉄鋼など熱を扱う産業では、CO2排出量を減らす新製法を取り入れた結果、価格が上昇し、製品自体の国際競争力が失われてしまうといった危険性もある。
日本では現在、こうしたメリットやデメリットを踏まえ、経産省と環境省がそれぞれ検討を進めている。
■目標達成には優遇
今回、経産省が公表した「日本版排出量取引」は、「グリーントランスフォーメーション(GX)リーグ」の基本構想に盛り込まれた。
GXリーグは、日本国内で事業を手掛ける国内外の企業が参加できる。参加企業は、国が掲げる2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に賛同し、30年度時点の削減目標も提示する必要がある。
政府が掲げる排出量削減目標より高い目標を掲げ、それを達成した企業は先進的企業として補助金などで優遇することも検討しているという。
排出量取引に向け「カーボン・クレジット市場」もつくる。カーボン・クレジットとは、企業が省エネ機器の導入や再生エネの利用でカーボン(CO2)削減の目標を上回って削減した分をクレジット(排出権)として国が認証する。
目標を達成できなかった企業は、不足分に見合うクレジットを買えるようにする。22年秋に実証試験を始め、23年4月以降の運用開始をめざす。参加締め切りは今月末まで。
■党も提言、50年の脱炭素へ重要/党地球温暖化対策推進本部 谷あい正明事務局長
市場原理を用いるカーボンプライシングの中でも排出量取引は、50年までに脱炭素社会を実現する国の目標を達成する上で重要な取り組みです。
国内で排出されるCO2の約半分が企業活動によるものです。排出量取引の導入が脱炭素化に果たす役割は大きいと考えています。
課題は、企業への負担が増すことです。また、排出枠の設定も難しい。厳格な水準にすると、規制が比較的厳しくない国に企業が移転してしまう可能性もあります。
昨年5月、党地球温暖化対策推進本部として政府に対し、カーボンニュートラルの実現に向けた提言を実施しました。提言の中で、成長戦略の観点からも企業の自主的な取引市場の整備を図ることは重要であると指摘しました。
国内の動向を踏まえつつ、企業の自主的な取り組みをさらに実用性の高い制度として実現する検討を進めることは重要になります。
日本には、優れた環境技術を持つ企業が少なくありません。環境省と経産省での排出量取引の議論を踏まえ、政府は一体となり、環境と経済の両立をめざす制度づくりを進めるべきです。